頸動脈プラークとプラーク内新生血管
緒方利安、竹下翔
福岡大学医学部脳神経内科
頸動脈エコーを用いた一般住民を対象とした長期的な研究のプール解析では、50%から69%の中等度狭窄の有病率は2%、70%以上の高度狭窄は0.5%の有病率であると報告されている[1]。無症候性頸動脈狭窄の脳梗塞発症リスクは動脈硬化危険因子の治療の向上により低下していることから、その治療には将来の脳梗塞の発症リスクの階層化が重要と考えられている。よって頸動脈プラークの中でも脳梗塞を発症させるリスクの高い、いわゆる不安定プラークを検出・同定することが重要である。本邦の頸動脈エコーガイドラインの中では、注意すべきプラークは、可動性プラーク、低輝度プラーク、潰瘍形成を認めるプラークとされている。我々は造影頸動脈エコー(contrast-enhanced ultrasonography: CEUS)で得られる所見に注目し、CEUSと不安定プラークの関連性について研究を行ってきた。ここではCEUSに基づくプラーク内新生血管の研究について、我々が行った研究も含め述べることとする。
CEUSとは
CEUSは、音響効果のあるマイクロバブルを静脈内注射して行うが、本邦ではペルフルブタン(ソナゾイド)を用いるのが一般的である。プラーク内の新生血管はマイクロバブルの動きによって評価でき、一般的に頸動脈の外膜側のみ、またはプラークショルダーからプラークコアに向かって移動するマイクロバブルを同定することで診断可能である。流速の遅い微細な血管の描出も、マイクロバブルの軌跡をとらえることで同定が可能である。Vasa vasorumは外膜に存在する微小血管のネットワークであるが、動脈硬化の進行とともに外膜側より内膜プラークに伸長する。より進行した頸動脈プラークで数と密度が増加したプラーク内の新生血管は、構造上脆弱なためプラーク内出血やさらなる炎症の原因となる[2]。これまで頚動脈プラーク内の血管新生と、不安定性の関連についての報告は病理学的なものが主だった。しかし近年、CEUSによって同定されたプラーク内の新生血管と不安定性の関連についての報告が散見されるようになった。
CEUSによるプラーク内新生血管の定量化
CEUSがプラーク内新生血管の同定に有用であることが、メタアナリシスで報告されている[3]。CEUSにおけるプラーク内新生血管の定量化については、造影剤投与後のプラーク内のマイクロバブルの造影の強さとそのマイクロバブルが出現する部位に基づいて、通常定性的に評価することで行われる。このgrading systemはいくつか報告されている。Staubらは、gradeⅠはプラークの増強なし、grade IIは外膜のvasa vasorumの増強のみ、grade IIIは外膜からプラークショルダーに至る部位の増強効果、grade IVは、プラーク内の広範な増強、を示すと報告している[4]。
CEUSによる新生血管の評価と不安定プラーク
プラーク内の新生血管の場所と増強の程度を評価することにより、CEUSは虚血性脳血管障害の将来の発症や重症度と相関することが示されている。このことからCEUSによる新生血管の評価は不安定プラークの特定に役立つと考えられる。新生血管の定量的評価と病理学的に評価されたプラーク内出血との関連も示されている[5]。SaitoらはCEUSにおいて、プラークコアの部分と比べてプラークショルダーの部分は、一般に造影剤による輝度上昇が強いこと、プラークショルダーの輝度上昇はプラーク内新生血管の存在を示唆すること、症候性頸動脈狭窄例のプラークのプラークショルダーの輝度は無症候性のそれよりも高いことを示した[6]。
われわれは、CEUS所見の時間経過ごとの変化に注目して研究してきた。CEUSにおける頚動脈プラーク内のエコー輝度は造影剤投与後、時間とともに減衰すること、頚部血管MRAで診断した不安定プラークでは特に、造影剤投与直後とその1分後ではエコー輝度の減衰の程度が大きいことを報告した[7]。すなわち、造影エコーの解釈には時間の要素を加える必要があると考えられた。プラークの造影効果が不安定性と関連する報告は多いが、どの時相で評価するのが良いか検討した報告はなかった。
さらにわれわれはCEUS所見で、プラークの全体ないし一部が淡く造影される所見ではプラーク内には小さな血管が多く、一方で点状もしくは線状に明瞭に描出される所見呈したとき、大きな新生血管が主であると考え、これらCEUS所見と病理学的な所見を比較した[8]。 その結果、プラークの全体ないし一部が淡く造影されたときには、不安定プラークである頻度が高かった。そして、超音波造影剤投与1分後にプラーク内の増強効果の程度を評価するのが最もよかったと報告した。 われわれはこの結果を踏まえて、頸動脈プラーク内の新生血管のうち小さな血管はもろく、プラーク内の出血が起こりやすいのではないか、と考えている。
プラーク内新生血管と炎症
病理学的には炎症は動脈硬化病変の進展に重要な役割を果たしており、特に炎症とプラークの不安定化は密接に関係していると言われている[9]。マクロファージ、Tリンパ球といった炎症細胞は、粥腫の破綻と血栓形成を促進するが、プラーク内に炎症細胞が浸潤するルートとしては、血管内腔から内膜を経由するルート、血管壁の栄養血管であるvasa vasorumを経由するルート、さらに粥腫内に形成された新生血管を経由するルートの3つの経路が考えられるが、いずれにしても粥腫内の新生血管が炎症細胞の供給源として特に重要視されている。我々は過去にCEUSを行っていた症例の病理標本を見直すことで、頸動脈プラークにおける炎症の発症と新生血管の関連性についてさらなる研究を進めている。
CEUSでは超音波造影剤のソナゾイドを用いるが、これは肝細胞癌・乳癌などしか保険収載されておらず、頚動脈プラークの観察目的でこれを用いることは保険上認められていない。本邦では臨床研究法が施行されたこともあり、この領域の研究がすすんでいない。このため今後、新たな超音波造影剤が出現し、それが頸動脈病変の評価にも保険収載されることで、頸動脈プラークにおける血管新生についての研究が更に進んでいくことを願う。
(参考文献)
- de Weerd M, Greving JP, Hedblad B, et al. Prediction of asymptomatic carotid artery stenosis in the general population: Identification of high-risk groups. Stroke. 2014;45:2366-2371.
- Falk E. Pathogenesis of atherosclerosis. J Am Coll Cardiol. 2006;47:C7-12.
- Huang R, Abdelmoneim SS, Ball CA, et al. Detection of carotid atherosclerotic plaque neovascularization using contrast enhanced ultrasound: A systematic review and meta-analysis of diagnostic accuracy studies. J Am Soc Echocardiogr. 2016;29:491-502.
- Staub D, Patel MB, Tibrewala A, et al. Vasa vasorum and plaque neovascularization on contrast-enhanced carotid ultrasound imaging correlates with cardiovascular disease and past cardiovascular events. Stroke. 2010;41:41-47.
- Schmidt C, Fischer T, Ruckert RI, et al. Identification of neovascularization by contrast-enhanced ultrasound to detect unstable carotid stenosis. PLoS One. 2017;12:e0175331.
- Saito K, Nagatsuka K, Ishibashi-Ueda H, et al. Contrast-enhanced ultrasound for the evaluation of neovascularization in atherosclerotic carotid artery plaques. Stroke. 2014;45:3073-3075.
- Shimada H, Ogata T, Takano K, et al. Evaluation of the time-dependent changes and the vulnerability of carotid plaques using contrast-enhanced carotid ultrasonography. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2018;27:321-325.
- Amamoto T, Sakata N, Ogata T, et al. Intra-plaque vessels on contrast-enhanced ultrasound sonography predict carotid plaque histology. Cerebrovasc Dis. 2018;46:265-269.
- Jander S, Sitzer M, Schumann R, et al. Inflammation in high-grade carotid stenosis: A possible role for macrophages and t cells in plaque destabilization. Stroke. 1998;29:1625-1630.