日本脳神経超音波と栓子検出学会

一般社団法人 日本脳神経超音波学会 事務局(代行)
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2022年メルマガ山村先生

福井大学医学部
地域医療推進講座
山村 修

小生の手元には第1回日本検出と治療研究会(エンボラス研究会、主催 Embolus研究会)のプログラム・抄録集が残っております。平成10年11月28日(土)9時30分~19時、会場は東京慈恵会医科大学「高木2号館」でした。駆け出しの自分にとって、医学、工学、薬学のコラボレーション学会に参加したのは初めてで、衝撃の1日でした。とても懐かしい思い出です。

それからほぼ4半世紀たって、自分は小さな教室の責任者になりました。福井県からの寄付講座で、奨学生(地域枠学生)のお世話をしながら地域医療に関わる研究を行っております。現在のテーマは「サルコペニア(加齢性筋肉減弱症)」です。人口減少社会に伴う医療撤退(ダウンサイジング等)と向き合いながら、予防医学を絡めて地域医療を支えるフィールドワーク研究を行っています。中核の研究手法は自己完結型検診で、サルコペニアやプレサルコペニアを検出し、産官学連携で予防介入策を探っています。フィールドワーク研究の手法は、被災地でのDVT(深部静脈血栓)検診で培いました。避難所を訪問し、説明をして検診(下肢静脈エコーなど)を実施し、その場で結果を伝える。このスタイルを平時の高齢者検診に応用しています。教室では2019年から県南部(嶺南地区)の若狭町で「若狭生き抜くプロジェクト」を実施し、70歳以上の高齢者、約100名を対象に半年毎にサルコペニア検診を実施し、基礎データを収集しました。対象地域でのサルコペニア検出率は3.6~6.5%で、本年7月にはサルコペニアに近い「身体的フレイル」の最大のリスクは入院であることを報告しました1)。現在もサルコペニアに関わる危険因子について、解析を進めています。

サルコペニアはフレイルや要介護状態のリスクであるとともに、脳卒中や悪性腫瘍など多くの疾患の治療成績にも影響を与えています。そこで、私共は検診に基づく介入試験を目指しています。介入はサルコペニア高齢者ではなく、健常高齢者とプレサルコペニア高齢者を対象とする方向です。2022年秋現在、私共の教室では県内4市町と提携し、介入試験と連動したサルコペニア検診を展開しています。アプローチ法は異なりますが、検診ベースであることは共通です。県南部(嶺南地区)の若狭町では「わかさ健活プロジェクト」が始動しました(記事)。半年毎に検診を実施しながらIoT機器(スマートミラー)を用いた栄養・運動指導を行う産官学連携研究で、この7月に第1回検診を実施しました(記事)。検診は多職種協働実践教育(Interprofessional education: IPE)を兼ねていて、医師、看護師、技師、リハビリスタッフ、管理栄養士、行政スタッフに加えて、医学生、栄養学科生もスタッフとして活躍しています。スタッフとして参加したことをきっかけにデータ解析から論文投稿まで取り組んだ医学生も現れ、とても驚いています。今は協力企業とともに運動指導の動画作成に携わりながら、住民の互助活動を介した介入プログラムの作成に取り組んでいます。また、小浜市では個別遠隔調理システムを用いた栄養介入の取り組みも開始しました(写真)。

県北部(嶺北地区)の勝山市と坂井市では遠隔運動指導を目指す「フレ!フレ!元気アップ教室」と「福大フレイル予防体操教室」が始動しました。こちらは参加高齢者に週1回の集団遠隔指導と毎日の自主トレーニングを組み合わせた運動プログラムを実践していただき、3か月~半年ごとにサルコペニア検診を実施することでフィードバックを行います。こちらは認知的フレイル(Cognitive Frailty)もテーマとしており、先述のIPEの一環として医学生にMini-Mental State Examination(MMSE)や日本版Montreal Cognitive Assessment(MOCA-J)の聴取を担当してもらっています。

講座では今後も地域医療への貢献を軸に、産官学、多大学連携研究を進める方針です。若狭町や小浜市ではDVT検診も実施しており、外来患者群や入院患者群とは異なる層を捉えています。新たな視点からのエンボラス研究につながることを期待しています。

引用文献

  1. Onishi H, Yamamura O et al, Int J Gerontol, 2022;16(3), 231-236
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